道内で自動車部品と産業機械向けの金属加工を手がけるA社(従業員 約120名)では、出荷前の外観検査を熟練者の目に頼ってきました。Blakiston は、熟練者が「何を見て不良と判断しているのか」を整理するところから入り、既存の検査カメラの画像を使ったAIの不良検知と、設備の不調の兆しを知らせる仕組みを、約5か月で現場に定着させました。

業種

製造業(金属部品の切削・プレス加工)

規模

従業員 約120名、検品担当 6名

期間

2026年1月〜5月(ヒアリング 1か月、PoC 2か月、並行運用 2か月)

支援内容

判断基準の言語化、教師データの設計、AIによる不良検知と予兆通知の導入、運用の定着

課題:検品の精度が、担当者の経験で変わっていた

A社の検品工程では、1日に約3,000個の部品を目で確かめ、傷・打痕・バリ・寸法の外れなどを見分けていました。判断の基準は熟練者の経験の中にあり、手順書には「目立つ傷は不良」としか書かれていません。経験の浅い担当者は迷った部品をすべて熟練者に回すため、判断が2名の熟練者に集中していました。

  • 見逃しによる客先からの品質クレームが、月に平均4件
  • 熟練者が休むと検品が滞り、出荷が半日遅れる日があった
  • 刃物の摩耗による不良の増え方に気づくのが遅れ、ロット単位の作り直しと設備の停止が年に約120時間

カメラによる自動検査は数年前にも検討していましたが、「不良の見本を集めて学習させる」前提で見積もると、費用と準備期間が合わず見送っていました。

Blakiston の見立て:まず熟練者の判断をことばとデータにする

最初のヒアリングで分かったのは、熟練者が見ているのは傷の有無だけではないことでした。傷の向き、加工の流れとの関係、光の当て方を変えたときの見え方を組み合わせて、「出荷して問題になる傷か」を判断していました。

この判断をAIに覚えさせるには、画像を大量に集める前に、判断の基準をそろえる必要があります。基準があいまいなまま学習させると、AIも担当者と同じように迷うからです。そこで、検品の自動化を目的にせず、熟練者の知見を誰でも使える状態にすることを最初のゴールに置きました。

取り組み

1. 熟練者の判断基準を言語化する

熟練者2名に、実際の部品を手に取ってもらいながら、延べ12時間のヒアリングを行いました。話した内容は ChatGPT で書き起こして論点を整理し、「不良とする条件」「合格とする条件」「迷ったときの見方」に分けて、28項目の判定基準にまとめました。基準は Notion に写真付きで載せ、検品担当の全員がいつでも見られるようにしています。

2. 既存のカメラの画像で教師データを作る

新しい設備は入れず、検査台に付いていたカメラ2台の画像を使いました。過去1年分の画像から約18,000枚を選び、判定基準に沿って熟練者が「良品」と6種類の不良に分けました。分け方に迷った画像は基準の見直しに回し、基準と教師データを行き来しながら精度を上げていきました。

3. AIの判定と人の判定を並べて確かめる

2か月の並行運用では、AIの判定と担当者の判定を毎日突き合わせました。食い違った部品は熟練者が最終判断し、その結果を学習に戻しています。並行運用の終わりには、熟練者の判定との一致率が96.8%に達し、AIが「不良の疑い」とした部品だけを人が確かめる運用に切り替えました。

4. 不良の出方から、設備の不調を先に知らせる

判定の結果は工程ごとに毎日集計しています。バリの大きさや同じ位置の傷が増えはじめると刃物の摩耗の兆しなので、その傾向が出た工程を、翌朝の朝礼前に現場のチャットへ知らせます。通知の文面は Gemini で作り、「どの工程で」「何が」「前週と比べてどれだけ増えたか」を短く伝える形にそろえました。

成果

指標

導入前

導入後

検品ミス(見逃し)の発生率

0.8%

0.04%(95%削減)

客先からの品質クレーム

月 平均4件

月 平均0.3件

1個あたりの検品時間

約12秒

約5秒

設備の停止と作り直し

年 約120時間

年 約40時間(機会損失を年 約500万円抑制)

検品担当の残業

月 平均22時間

月 平均8時間

数字に表れない変化もありました。判定基準が写真付きでまとまったことで、新しく配属された担当者が一人で検品に入れるまでの期間が、約3か月から3週間に縮まりました。熟練者は迷った部品の判断に追われることがなくなり、基準の見直しや後輩の指導に時間を使えるようになっています。

「AIを入れること自体より、自分たちが何を見て判断していたのかを初めて言葉にできたことが大きかったです。基準がそろったので、AIの判定にも人の判定にも納得感があります。」
(A社 品質保証課 課長)

今後の展開

A社では現在、同じ進め方で溶接工程の外観検査への展開を進めています。あわせて、蓄積した判定の記録を加工条件の見直しに使い、不良そのものを減らす取り組みにも広げていく予定です。