プロンプトの書き方を解説した記事は、もう十分にあります。役割を与えよ、具体的に書け、例を示せ。正しい。

ただ、AIに一回の作業を頼むのと、業務を任せるのとでは、書くべきものが変わってきます。後者で必要になるのは、プロンプトというより指示書です。新しく入った人に業務を引き継ぐときに渡す、あの文書に近い。

違いは何か。一回のプロンプトは、その場で結果を見て直せます。指示書はそうはいかず、自分が見ていないところで何十回、何百回と使われるので、想定外が起きたときにどう振る舞うかまで先に書いておく必要があります。

この記事では、業務をAIエージェントに任せるときの指示書に何を書くべきかを、実務でやっている形のまま書いてみます。

目次

  1. 人への指示書と、AIへの指示書はどこが違うか
  2. 指示書に書く五つの要素
  3. 「やらないこと」を書くと精度が上がる
  4. 書いてみる――見積の類似案件検索の例
  5. 10ステップで、一度止める
  6. 指示書は、一度では完成しない
  7. 誰が書くのがいいのか
  8. 北海道では、指示書が別の価値を持つ
  9. 最後に

1. 人への指示書と、AIへの指示書はどこが違うか

似ている点から。どちらも目的、手順、判断基準を書きます。そこは同じです。

違うのは三点。

ひとつ、AIは常識で補うということをしません。正確に言えば埋めはするのですが、何をどう埋めたのかをこちらに教えてくれないので、埋められたこと自体に気づけない。暗黙の前提ほど明示的に書く必要があります。

ふたつ、AIは聞きに来ません。新人なら迷ったら聞きに来ます。AIは迷っても進む。だから「こういうときは止まって人に確認する」という条件を、こちらから先回りして書いておかないと、誰も気づかないまま処理が進んでしまいます。

みっつ、AIは疲れません。同じ品質で100件処理します。利点です。裏返すと、指示書が間違っていれば100件とも同じように間違える。人なら50件目くらいで「これおかしくないですか」と言ってくれる。その安全弁がない。

この三つを押さえると、書くべき内容が決まります。

2. 指示書に書く五つの要素

実務で使っている型を出します。五つ埋めれば、だいたい動きます。

ひとつめは目的。何のためにやるのか。「請求書の内容をシステムに入力する」は手順であって目的ではありません。目的は「月末の締め処理を、担当者が残業せずに終えられる状態にする」のほうです。目的を書いておくと、判断に迷ったときの基準になります。手順だけ書いた指示書は、想定外が来た瞬間に止まります。

ふたつめは入力と出力。受け取るものの形式と、返すものの形式を具体的に指定します。曖昧にしない。「表形式で」ではなく「A列に日付、B列に取引先名、C列に金額、ヘッダー行あり」まで書く。ここが曖昧だと毎回少しずつ違う形で返ってきて、受け取る側が手直しすることになります。

みっつめは手順。番号を振って書き、並列でよい作業と順番を守るべき作業を分けて示します。大事なのは、細かすぎないこと。すべての分岐を書き尽くそうとすると指示書が30ページになり、誰もメンテナンスできなくなります。Anthropicも、エージェント構築ではまず最もシンプルな解を探し、必要になったときにだけ複雑さを足すべきだと書いています。

Building effective agents(Anthropic)
https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents

よっつめは判断基準。ここが本体です。「金額が10万円を超える場合は、部長承認フラグを立てる」「備考欄に日付がある場合は、それを納期として優先する」。この部分が、その会社固有の資産になります。モデルが入れ替わっても、ここは残る。

いつつめが、やらないこと。次章で書きます。

3. 「やらないこと」を書くと精度が上がる

五つのうち、最も効果が大きく、最も書かれていないのがこれです。もったいない。

やらないこと、とはこういう記述です。読み取れない項目は推測で埋めず、空欄にして理由を書く。取引先名がマスタにない場合は、新規登録せず保留リストに入れる。金額の計算が合わない場合は、処理を止めてアラートを出す。社外に出る文面は作らない。

なぜこれで精度が上がるのか。AIは、指示された仕事を完遂しようとするからです。情報が足りなくても、それらしい答えを出して前に進もうとする。この性質は、聞き返されずに済むという意味では便利なのですが、業務に組み込んだ途端にやっかいなものに変わります。

分からないときは分からないと言う。これを明示的に許可しておくだけで、出力の信頼性は目に見えて上がります。何より、人が確認すべき箇所をAIのほうから教えてくれるようになる。全件を人が見直すのか、AIが不確かだと申告した3件だけを見るのか。この差が、そのまま削減時間の差になります。

逆に言えば、やらないことが書かれていない仕組みは、全件確認が前提になります。それでは時間は浮きません。

4. 書いてみる――見積の類似案件検索の例

抽象的な説明が続いたので、実物に近い形を置きます。建設会社で、見積作成時に過去の類似案件を探す業務を想定したものです。

目的:見積担当者が、新規の引合いに対して参考になる過去案件を短時間で把握できるようにする。金額の決定は担当者が行う。

入力:引合い内容(図面PDF、仕様書、またはメール本文)。過去案件データベース(Excel、2018年以降の全件、工事名/用途/延床/構造/受注金額/粗利率/担当者の列を持つ)。

出力:類似度の高い順に3件。各件について、工事名、年度、延床、構造、受注金額、粗利率、当時の特記事項を1行ずつ。最後に「今回との主な相違点」を3点。

手順:引合いから用途・構造・延床・工期・地域の5項目を抽出する。過去案件DBを用途と構造の一致で絞り込む。絞り込んだ中から延床が±30%以内のものを抽出する。該当が3件未満の場合は延床の条件を±50%に広げる。抽出した案件を延床の近い順に並べる。各案件の特記事項欄を40字以内に要約する。今回の引合いと上位3件の相違点を3点挙げる。

判断基準:用途が倉庫と工場の場合は相互に類似とみなしてよい。2020年以前の案件は資材価格が大きく異なるため、金額の参考値としては扱わず工法の参考としてのみ提示する。粗利率が5%を下回る案件には、その旨の注記を付す。

やらないこと:今回の見積金額を算出しない。該当案件が1件も見つからない場合、条件をさらに緩めず「該当なし」と返す。過去案件の金額を物価変動で補正しない。社外に出る文面は作らない。

A4で1枚。書くのに2時間ほどかかりました。時間を食うのは文章を書く作業ではなく、「用途が倉庫と工場なら類似とみなしてよいか」といった一行を社内で確認して回る作業のほうでした。

そして、その確認こそが価値を生みます。これまで担当者の頭の中だけで処理されていた判断が、この一行として組織の資産に変わるからです。

5. 10ステップで、一度止める

どこまで自律的に動かすか、という設計の話を。

UCバークレーらが2025年に公表した、本番環境でエージェントを運用しているチームへの調査があります。そこでは、68%のエージェントが人の介入を必要とするまでに実行するステップ数は最大10程度にとどまる、と報告されています。より細かくは、46.7%が1〜4ステップ、21.7%が5〜10ステップ。

Measuring Agents in Production(arXiv, 2025)
https://arxiv.org/html/2512.04123v1

同じ調査では、74%が人を介在させた評価を主に用いていること、75%のチームが正式なベンチマークを持たないまま運用していることも示されています。

最先端で開発しているチームですら、この水準です。全部おまかせで動いているエージェントは、現実にはほとんどありません。

ここから導ける指針はシンプルで、指示書には止まる場所を書く、ということです。5〜10の工程ごとに人が結果を見る設計にしておけば、間違いが連鎖する前に止まります。

「せっかく自動化するのに、人が見るのでは意味がない」と言われることがあります。意味はあります。全工程を人がやるのと、人が確認だけするのとでは、かかる時間が一桁違うからです。

6. 指示書は、一度では完成しない

運用の話も少しだけ。

指示書は書いて終わりではありません。運用を始めると、必ず想定外が出ます。書式の違うファイルが来た。新しい取引先が増えた。例外ルールが見つかった。そのたびに指示書を直すことになり、この更新を誰がやり続けるのかという問題が、前に書いた持ち主の役割そのものになります。

実感として、最初の1か月は週1回、2か月目以降は月1回程度の更新が発生し、3か月もすると落ち着いてきます。この3か月を越えられるかどうかで、定着するかどうかが決まります。

変更履歴を残すことも、地味ですが重要です。なぜこのルールを足したのかが分からなくなると、怖くて誰も触れなくなる。日付と理由を1行添えるだけで構いません。

2026-04-12 「2020年以前は金額の参考値としない」を追加。資材高騰前の案件が混ざり、担当者から見積の目安として使えないと指摘があったため。

この程度で十分です。半年後の自分が読んで分かればいい。

もうひとつ。指示書は長くなるほど壊れやすくなります。例外を足し続けると相互に矛盾するルールが混ざり、どちらが優先なのかが曖昧になる。1ページを超えたら一度全体を読み直して整理する。この習慣があるかどうかで、1年後の状態がまったく違ってきます。

7. 誰が書くのがいいのか

担当の決め方を。

書くのは、業務を知っている人がいい。当然です。判断基準を知らない人には書けません。

ただし一人で書かせないほうがいい。業務を知っている人は、知っているがゆえに前提を省きます。「それは当然こうする」が抜け落ちる。そこで、業務を知らない人が横について「いまの、なぜそうなるんですか」と聞く体制にします。聞き役は新入社員でも別部門の人でも構いません。むしろ知らないほうが向いています。知っていると、空白を自分で埋めてしまうからです。

書き上がったら、別の人にその指示書だけを見て同じ作業をしてもらいます。詰まった箇所が、書き漏れた前提です。この検証を1回挟むだけで、完成度はかなり上がります。

所要時間の目安は、業務を知っている人が2時間、聞き役が2時間、検証する人が1時間。合計5人時です。一度作ってしまえば、モデルが入れ替わってもサービスを乗り換えても、中身はそのまま何年も使い続けられます。

実際の作業中によく出る質問も、いくつか拾っておきます。長さはA4で1〜2枚。3枚を超えると、たいてい複数の業務が混ざっています。専門用語は使って構いません。むしろ社内で使っている言葉をそのまま書くほうがいい。英語で書いたほうが精度が高いと聞きました、と言われることもありますが、日本語で問題ありません。日本語の業務を日本語で書いたほうがニュアンスが正確に残りますし、何より社内の人が読めることのほうが重要です。読めない指示書は、メンテナンスされません。

8. 北海道では、指示書が別の価値を持つ

道内の中小企業でこの作業をやると、AI活用とは別の効果が先に出ることがあります。人の引き継ぎ資料ができる、という効果です。

道内の中小企業では、一人が複数の役割を持っているのが普通です。受注から手配、請求までを一人で通している。工場の段取りと人の配置を一人で決めている。日々の効率という意味では悪くないのですが、その人が抜けた瞬間に、誰も代わりに回せないという形で問題が一気に表に出ます。採用で埋めようにも、道内の人手不足の状況では同じ仕事を任せられる人は来ません。

AIに渡すための指示書を書く作業は、この属人化した業務を文章にする作業とまったく同じです。目的、入力と出力、手順、判断基準、やってはいけないこと。人への引き継ぎ書に必要な項目と一致します。

苫小牧のある物流会社では、配車の指示書をAI向けに書き起こす過程で、ベテラン配車担当の判断基準が初めて文章になりました。結果として、AIに渡す前に新人の教育期間が短くなったそうです。順序が逆転したわけですが、会社としては得をしています。

北海道でAI活用を進める価値は、作業時間の削減だけにあるわけではないと思っています。人が減っていく前提の地域で、業務を人から切り離して記述しておくこと自体に価値がある。AIを入れるかどうかの判断が付かない段階でも、この作業だけは始める意味があります。

9. 最後に

指示書を書く作業は地味です。面白くもありません。正直に言えば、やりたがる人はあまりいない。ここを飛ばして「とりあえずプロンプトを工夫する」に向かうと、属人的な使い方しか残らない。その人が異動したら終わりです。

書いた指示書は、資産として残ります。モデルが入れ替わっても、サービスを乗り換えても、中身はそのまま使えます。むしろAIが賢くなるほど、同じ指示書でより良い結果が返ってくるようになる。

最初の一本を書くのに、半日あれば足ります。完璧を目指さず、動かしながら直す。それで十分です。

Blakistonでは、北海道の企業のAI活用について、業務の棚卸しから定着までのご相談を承っています。