「求人は出しているんですよ。応募が来ない」
道内で経営者の方と話していると、この一文がほぼ必ず出てきます。来ても欲しい職種ではない、という続きまで含めて、だいたい同じ形をしています。そして最後に、いま回してくれている人が辞めたら、あの業務は止まる、と。分かっていながら手が打てていない、という顔で言われることが多い。
AI活用の記事は、たいてい「業務効率化でコストを削減する」という書き出しで始まります。ただ、北海道の中小企業にとって、出発点はそこではないと思っています。コストを削るためというより、人が減っても事業を続けるためにやる。目的が違えば、選ぶ業務も投資の判断基準も変わってきます。
この記事では、北海道の人口と労働力に関する公開データを確認したうえで、人が採れない前提で業務を設計し直すときの考え方を書いてみます。
目次
- 有効求人倍率0.9倍。それでも人がいない
- 北海道は、人口減少に適応しながら成長してきた
- 農業と建設が、先に何をやったか
- 次に手をつけるのは事務と判断
- 都市部の導入論が、そのままでは使えない
- やめる、渡す、残す
- 最後に
1. 有効求人倍率0.9倍。それでも人がいない
まず数字を確認します。そしてこの数字は、直感に反します。
北海道の有効求人倍率は、2022年11月の1.19倍を直近のピークに低下し、2024年12月の1.01倍を最後に1倍を割り込みました。2026年2月時点で全道0.9倍、札幌圏に至っては0.79倍です。
北海道は本当に人手不足? 有効求人倍率0.9倍でも「人がいない」が続くワケ(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1304529/
0.9倍というのは、仕事を探している人10人に対して求人が9件しかないという意味です。数字の上では求職者のほうが余っている。にもかかわらず、道内の企業は人手不足を訴え続けています。
この矛盾の正体は、職種と地域のミスマッチです。事務・オフィス系の求人に対しては求職者が十分にいる一方、製造、介護、接客、建設では求人に対して応募が決定的に足りていません。
ここから読み取るべきことは二つあると思っています。待遇を上げても応募のない職種には人が来ない、ということがひとつ。そもそも母数が地域にいないからです。もうひとつは、事務系には人がいる、ということ。ただしその人たちを採用しても現場の人手不足は解消しません。足りないのは事務職ではないからです。
この構図を踏まえると、打ち手の方向が見えてきます。応募が来ない職種の仕事を増やさないこと。そして応募が来る職種の仕事をできるかぎり機械に寄せて、その人たちを別の場所に配置できるようにすること。
2. 北海道は、人口減少に適応しながら成長してきた
暗い話が続きそうなので、先に反対側のデータを置いておきます。
日本銀行札幌支店が2025年5月に公表したレポート「人口減少下で成長する北海道経済」は、率直に言って道内の経営者にもっと読まれていい内容です。
人口減少下で成長する北海道経済(日本銀行札幌支店、2025年5月28日)
https://www3.boj.or.jp/sapporo/kouhyo/kouhyofile/report202505.pdf
北海道の人口は1997年の約570万人をピークに、全国より約10年早く減少局面に入りました。将来推計では2030年に479.2万人、2050年に382.0万人。2050年の生産年齢人口は2010年の5割強まで落ちる見通しです。札幌市以外に限れば、減少が始まったのは1981年で、すでに40年以上続いています。
ここまでは、よく聞く話です。問題はこの先でした。
同レポートによれば、道内総生産は2011年度以降、人口が減り続ける中で増加基調に転じています。2011年度から2021年度にかけて全道で1割強の増加。しかもこれは札幌市だけの話ではありません。振興局別に見ても多くの地域で総生産が伸びており、人口・就業者数がともに大きく減った地域を含め、一人当たりの総生産は各地域で増加しています。
人口が減ったのに、生産は増えた。一人当たりで見れば、はっきり良くなっている。
これは「人口減少は克服できる」という精神論ではありません。実績として起きたことです。北海道は、人口減少への適応を全国に先んじて20年以上やってきた地域だということになります。
3. 農業と建設が、先に何をやったか
では何をやって適応したのか。同レポートは産業別に具体的に書いています。
農業では、北海道の産出額が2011年以降3割程度増加した一方、農業就業者数は減り続けました。結果として就業者一人当たりの産出額が大きく伸びています。背景として、耕地面積の減少ペースが全国より緩やかで一人当たり耕地面積が大幅に増えていること、つまり大規模化と機械化が進んだことが挙げられています。
建設はさらに示唆的でした。建設業の就業者数はほぼ横ばいで推移する中、公共・民間ともに増える工事に対応しています。就業者数ベースの生産性は大きく上昇しました。レポートは理由をこう書いています。建設業者ではデジタル技術の活用などによる省人化の取組みが進められており、限られた人手で工事に対応するための効率化が進んだものとみられる、と。
設備投資そのものも2011年度以降は増加基調で、省力化投資の事例が目立つと整理されています。同レポートに載っている企業ヒアリングから、ひとつだけ引きます。釧路の建設会社の言葉です。
生産性向上の観点から、バックオフィス事務を一元的に処理するデジタルプラットフォームを構築した。半年の納期遅延やコスト上昇などの障壁もあったが、導入後は事務効率化につながっている。
私はこの一文を読んで、しばらく考え込みました。半年遅れて、コストも上振れした。それでも、やった。そして効果は出ている。
省力化投資は、たいてい最初はうまくいきません。それでも先に手をつけた会社が、人が減った局面で残っている。この20年に北海道で起きたのは、そういうことだったのだと思います。
4. 次に手をつけるのは事務と判断
ここまでの省力化は、主に体を動かす仕事が対象でした。機械を入れ、自動化設備を導入し、現場の人手を減らす。
残っているのは、事務と判断です。
見積を作る。日報を集計する。手書きの伝票を入力する。過去の類似案件を探す。図面から数量を拾う。関係各所への連絡を整える。どれも機械化設備では減りませんし、どの会社でも同じ人がやっています。
第1章で見たとおり事務系の職種には求職者がいるので、「事務は採用できるから大丈夫」と考えたくなります。ここに落とし穴がある。採用できるのは一般的な事務ができる人であって、「うちの見積の作り方」を知っている人ではありません。その部分は入社後に覚えてもらうしかなく、覚えるまでに数年かかる。そして覚えた頃にその人が辞めるリスクを、抱え続けることになります。
つまり事務領域の本当の課題は、人員数ではありません。業務が特定個人に固着していることだと思っています。ここを解くのに生成AIは比較的向いている。手順と判断基準を書き出して渡す作業が、そのまま属人化の解消になるからです。倉庫に自動倉庫を入れるのに比べれば、投資額は桁が二つ違います。
事務と判断がどこに溜まっているかは、業種によってある程度決まっています。建設であれば見積の数量拾いと過去の類似工事を探す作業、施工記録や写真の整理、提出書類の作成。運送であれば手書きの受注票や配車指示の入力、日報からの実績集計、請求のもとになる数量の突合。食品加工なら規格書やレシピの管理、取引先ごとに書式が違う帳票への転記。卸・小売なら発注点の判断、欠品時の代替提案、問い合わせへの一次回答。
並べてみると共通点が見えます。どれも、書式が決まっていない情報を、書式が決まっているところに移す仕事です。人間は書式の違いを吸収できるので、この作業がずっと人手に残ってきました。生成AIが従来のシステムと違うのは、まさにここを扱えるようになった点にあります。
自社のそれがどこにあるか分からない場合は、紙が関わっている工程と、同じ内容を二度入力している工程を探すのが手っ取り早い方法です。
5. 都市部の導入論が、そのままでは使えない
一方で、東京の大企業向けに書かれたAI導入の記事や大手ベンダーの提案が、そのまま使えるかというと使えません。前提が違います。
大企業の記事には「AI推進室を設置し」「CoEを組成し」と書かれています。社員30名の会社にAI専任の部署は置けません。置けるのは兼務の担当者一人までです。したがって体制論をそのまま輸入すると、最初の一歩で詰まります。必要なのは組織図ではありません。兼務の一人が月に数時間で回せる範囲まで、対象を絞り込むことです。
データの在り処も違います。大企業向けの議論は基幹システムにデータが揃っていることを前提にしていますが、地方の中小企業ではデータの大半がExcelファイルと紙、そしてベテランの記憶の中にあります。これは不利な条件に見えて、必ずしもそうではありません。基幹システムからデータを取り出すには情報システム部門と半年の調整が要りますが、Excelファイルなら明日から使えます。小さい会社のほうが、着手は速い。
業務の持ち方も違います。大企業では一つの業務を複数人が分担しているので、一部を切り出して自動化しやすい。地方の中小企業では一人が受注から請求まで通しで持っていることが普通で、工程が細分化されていないぶん、どこを切り出すかの判断が難しくなります。その代わり、その一人と話せば全体が分かる。意思決定者と実務担当者の距離が近いことは、大企業に対する明確な優位です。
地方の中小企業は体制では不利で、意思決定の速さでは有利。であれば、体制を整えてから動くより、動きながら整えるほうが合理的だと考えています。
6. やめる、渡す、残す
具体的な進め方です。やめる、渡す、残す、の順で考えることをお勧めしています。順番が重要です。
最初にやるのは自動化ではありません。廃止の検討です。長く続いている業務の中には、始めた理由が失われているものが必ずあります。誰も読んでいない日報。二重に作っている台帳。慣習で続いている報告。なぜこれをやっているのかを誰も説明できない業務は、AIを入れる前にやめられないかを検討する価値があります。自動化してしまうと、不要な業務が安価に永続する。人手でやっているうちは「面倒だからやめよう」という力が働きますが、自動化するとその力が消えてしまうからです。
やめられなかったものの中から、AIに渡せるものを選びます。判定の目安は、手順と判断基準を言葉で書けるか、出てきた結果が正しいかを照合できるか、間違えてもやり直しがきくか。この三つが揃う業務から着手すると、まず失敗しません。人が採れない前提で選ぶなら、優先すべきは「その人が辞めたら止まる業務」です。効率化の幅よりも、事業継続のリスクが高い順に並べる。目的がコスト削減ではないので、判断基準もそちらに合わせます。
残りが、人の仕事です。顧客との関係。値決め。品質の最終判断。トラブル時の謝罪と落としどころ。採用と育成。どれも渡せませんし、渡すべきでもありません。ここを明示的に「残す」と決めることには実務上の意味があって、現場が抱く最大の不安は自分の仕事がなくなることだからです。何を残すのかを先に言葉にしておくと、協力が得られます。
補助金についても触れておきます。道内ではAIやデジタル化への補助制度を使える場面が増えました。使えるものは使うべきです。ただ、順番を逆にしないほうがいい。補助金が取れたから何をやるか考える、という順番にすると、補助対象になりやすい形に計画を寄せた結果、自社にとっての優先順位から外れた業務に着手してしまう。先に仕分けをして、渡すと決めたものに使える制度があれば申請する。この順番であれば、補助が下りなくても実行しますし、下りれば前倒しできます。
7. 最後に
北海道の人口は、これからも減ります。2050年に382万人、生産年齢人口は2010年の5割強。この数字は動きません。
ただ、日銀札幌支店のレポートが示したのは、人口が減っても経済は成長しうるという事実でした。実際この20年、道内の農業と建設は人を増やさずに生産を増やしています。やったことは派手ではありません。大規模化し、機械を入れ、デジタルで事務を減らした。半年遅れ、コストも上振れしながら、続けた会社が残りました。
生成AIは、この流れの延長線上にあります。特別な技術というより、これまで機械化できなかった事務と判断の領域にようやく手が届いた、というだけのことだと思っています。
だとすれば、やることは以前と変わりません。まず、やめられるものをやめる。次に、渡せるものを渡す。最後に、人がやるべきことを決める。
冒頭の「応募が来ない」は、当面変わらない前提です。その前提から設計を始めた会社が、10年後に残っているのだろうと思っています。
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